もう何年も、幾年も。 私の頭上は、曇り空。 ある日、アタシが転んだら。 ざぁざぁと雨が降ってきた。 無情なまでに、ざぁざぁと。 それからはずっと、雨模様。 雨は未だ、止まない―――。 てのひらの空 しと、しと、と。 女がひっそりと泣くように、五月雨が降る。 手を広げた紫陽花は俯き、涙を抱き寄せる。 「アタシそっくりや」 雨泪を見上げたアタシは、ぽつり呟く。 机の上には解き掛けの問題集と、投げ出したシャーペン。 期末試験前日だと云うのに、アタシは全くヤル気が無い。 雨粒が強かに打ち付ける窓に寄り掛かって、重い重い溜息を吐く。 「そんな溜息吐いたら幸せ逃げるで」 カリカリと文字を描く音を立てながら、キミがぼやく。 その冷ややかな視線はノートに落ちたまま、アタシを見ない。 それが嫌で、クイとキミの袖を引く。 「…何や?」 キミは視線を移さないまま、アタシに問う。 その眼差しが欲しいのに、キミは与えてくれない。 「……別に、何も…」 ふわり、袖を離して、窓の外を見上げる。 雨粒は滑らかな直線を描いて、静かに降り注いでいた。 女がさめざめと泣くように、しとしとと。 「ホンマ、アタシそっくりや…」 忌々しげに溜め息を吐いて、アタシは呟く。 ―――雨は、嫌いだ。 「…独言言うんやったら、もう少し小さい声で言うたら如何や?」 カタン、とキミはシャーペンを置いて、漸くアタシの方を見た。 その眼差しは真っ直ぐで、アタシの心を射通してしまう。 振り向いたアタシは、動けなくなってしまった。 そんなアタシを見て、キミは呆れたように苦笑する。 「分からん奴やなぁ」 くつくつと声を漏らしてキミが笑うと、停止していた思考と表情が漸く緩んだ。 「そんなん今更やわ」 「…それもそうやな」 顔を見合わせて、二人でカラカラと笑って。 テレパシーを伝えるように、互いの額を寄せ合った。 「お前が五月雨に似てるて?」 「うん」 上目遣いでキミを見ると、キミは口の端をニヤリと上げて。 「阿呆、全然似てへんわ」 そう言って、キミは少し乱暴にアタシの髪を撫でた。 「嘘、似てるわ。陰険やし、鬱陶しいし…」 そう言ったアタシが視線を逸らすと、今度は梳くようにして髪を撫でられた。 「ンな事あらへん」 そっぽ向いてるから顔は見えないケド、キミはきっと苦笑してる。 そんな印象を与える、声音だった。 そんなキミに“有難う”も言えないアタシ。 暫くは、沈黙―――。 「…そや、気分転換に散歩でも行こか」 ぽつり、キミが言う。 アタシ、視線を戻す。 その先には、アタシの好きなキミの笑顔。 「―――…っ」 それが嬉しくて、嬉しくて。 何も言えなくて。 ただキミを見つめて。 ふと、アタシの雨が、止んだ気がした。 だから、頷いた。 「決まりやな」 そう言って、口の端でニヤリと笑うキミ。 毅然とした背筋で立ち上がって、アタシに手を差し出す。 その掌はまるで―――アタシの涙雨を払う、一片の青空。 その青空を掴んで、アタシはふわり笑った。 外の雨も、上がった。 「あ、青空」 アタシがそう言うと、キミは窓の外を見て。 「散歩日和や」 そう呟いて、笑った。 キミは、気付いてないのかも。 アタシが見付けた青空は、キミの掌だって事に。 それは一片の、てのひらの空―――。 |
